自閉症療育におけるフォーマットの威力

自閉症のお子さんの療育には、視覚支援が有効だと言われています。そして、視覚支援の具体的な代表例は、

  • 1日のスケジュール
  • カレンダー
  • (生活スキル)の手順書

です。

お子さんが言葉が喋れる/喋れないに関係なく、視覚支援は有効です。文字が読めるお子さんなら、文字で書いてあげれば良いし、文字が読めないお子さんの場合はイラストを使います。

 

ここで、スケジュールにしろカレンダーにしろ手順書にしろ、罫線が登場しますね。ちょっとおしゃれに言うと、「書式」。英語ちっくに言うと「フォーマット」です。

市町村役場で住民票を請求するときも、クレジットカードを申し込む時も、入学願書を書く時も、それぞれ書式というのがありますね。私たちは何気なく、それら書式に記入していますが、実はその書式にはとてつもない力があるのです。

 

ごく簡単な書式は、罫線だけのものです。学習ノートがそうです。勉強ができる子は、だいたい、その科目にあった罫線のノートを使用しています。原稿用紙も書式です。小学生だけでなく、プロの作家も原稿用紙を使います。罫線の無い真っ白な紙に文章を書こうとすると、とてつもなくストレスを感じると思います。罫線があると、楽に頭の中にある文章を紙に書けるわけです。

 

その次に私たちが良く接するのは、申請書類でしょう。殆どは、住所氏名年齢職業の項目です。そう書いてあると、申請者が書いてしまします。ここに、年収、家族構成、借入金、住居種別などの記入欄があると、やはり、「書かなければいけない」という意識が働きますね。

 

もっと高度なのは、事業計画書のフォーマットです。通常の事業会社であれば、企画部がフォーマットを作って、各事業部門に事業計画書を書かせます。企業が銀行から融資を受けたい時も、銀行は企業に事業計画書の提出を要求します。事業計画書のフォーマットというのは、提出を受ける側が知りたいこと書かせるために、フォームを使って記入内容を誘導しているのです。

 

書式があると、書く側(書かされる側)は、記入が楽になります。

  1. 何を書いていいか分からなくても、書くべき項目を誘導されます。
  2. どこに書くべきかは、罫線で指定されます。

 

書式は、(設計者がちゃんと設計すると)、効果を高めることができます。

  1. 設計者は、重要な項目を記入者に書かせようとします。
  2. 設計者は、書かせた内容の間違いが少なくなるように、レイアウト(罫線の位置関係)を作ります。

すなわち、記入者はその書式の意図を知らなくても、その書式の狙いを享受できるのです。

 

では、実例として「おめめどうさん」の商品を分析してみましょう。

予定シート

単純な罫線と時計の文字盤から構成されています。(もし、文字盤がなくても)8つの事柄を順に書いていけばいいな、と、一目でわかります。

文字盤があることによって、ここには時刻をアナログで書くんだな、と一目でわかります。

このタイプの書式は、書くべきことを順当にレイアウトした単純なものです。

これがあると、記入者(本人も支援者も)はとても楽です。

 

 


巻物カレンダー

カレンダーのレイアウトを特定の目的のために最適化した例です。

1)1日分に書ける面積を多く取った。

2)通常のカレンダーは縦間隔が短く、縦横の混乱が生じる欠点があった。縦の混乱を避けるレイアウトを採用。

すると、結果的に「モノ」としては巻物のようになっています。

この書式を使うと、自動的に「1日書ける内容が多い」「週を超えた縦の混乱が少ない」という効果を本人も支援者も得ることができるわけです。

 


おはなしメモ

このフォームの設計思想は、かなり高度ですよ。

自閉症の人は、「相手が、どう考えているかを推測すること」が苦手です。苦手ですし、そのように考えません。自閉症の人は、自分が言おうが、相手が言おうが、事実は一つしかないというような振る舞いをします。

この「おはなしメモ」の書式は、「自分の他に話者が存在し、その話者が話してる」ということを視覚的に表しています。

自閉症の人は、(文字が読める前提はありますが)視覚的に「話者が他に存在し、その話者が何を言っているか」を示してあげると、そのことを理解することは、ちゃんとできます。

この「おはなしメモ」というフォーマットを使わないで、「話者が他に存在し、その話者が何を言っているか」を自閉症の人に理解させるのは、困難です。

この例では、自閉症の人への支援手法がさりげなくフォーマットに注入され、それを使う支援者は、そんなことを意識しなくても、支援手法の効果を受けることができるわけです。本人が書いても使えるし、支援者が書いても使えます。

 

私たちは、書式やフォーマットを見慣れていて、その威力を軽視しています。

自閉症の人への支援では、フォーマットが、大きな効果をもたらすことと、多くの苦労の軽減につながります。

 

写真の出典)おめめどう

 

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